「ボッチプレイヤーの冒険 〜最強みたいだけど、意味無いよなぁ〜」
第73話

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自キャラ別行動編(仮)
<城と上位精霊>



 二人のケンタウロスは(正確には一人はケンタウレだが)ミラダ族の若者が見たという人族の城のあると言う場所に向かって草原を疾走していた。

 「フェルディナント、人の城が一日で建ったと言う話、あなたはどう思います?」

 「いくらなんでも一日で城が建つわけがないだろう。考えられるとしたら魔法での隠蔽なのだろうが」

 そう口に出しながら私は自分の顔にかかる金色の髪を払いながら考える。
 城などと言う大きな物を隠蔽する魔法など、この世にあるのだろうか?

 我々ケンタウロスは身体能力こそ高いが、それ程魔法に秀でた者が多くない。
 その中でも横を走っているオフェリアが私の知る限り、ケンタウロス全体で1・2を争うほどの精霊魔法の使い手ではあるが・・・。

 そんな彼女の白い横顔を見つめながら、私は思ったことを聞いてみることにした。

 「オフェリア、そなたは城と言われるほど大きな物を周りから隠蔽するほどの魔術を使う事が出来るか?」

 「私ですか? 流石にその規模の隠蔽は無理よ。小屋程度ならともかく、いかな光の中位精霊様であるウィル・オー・ウィプスの力をお借りしたとしても城と呼べるほどのものを隠すほどの大魔術は無理ね」

 オフェリアが私の言葉に軽く首を傾げてそう答えてくれた。

ドキッ。

 その動きに合わせて流れる光り輝く白い髪が美しく、一瞬見とれてしまった。
 だが、それを悟られる訳にはいかない。
 いくら走っているとは言え、そのような事を悟られればまた擦り寄ってくるのは間違いないだろうからな。

 それどころか、先ほどのように腕を組まれでもしたら振りほどくのも一苦労だ。
 私は誤魔化すように頷いて視線を外し、走っている方に顔を向けて先程の話題に頭を切り替える。
 
 しかし、やはりそうなのか。
 彼女ができないのであればケンタウロスの中にできる者はいないだろう。
 と言う事はだ、それは城以上にケンタウロス全体にとって脅威になりうるのではないか?

 「だとすると、その城にはそれ程の魔法が使えるものがいると言う事か」

 「いえ、流石に城を隠すほどの魔法を人族が使えるとは思いません。私が考えるに、どちらかと言うと見つかった建物が城であると言う話を疑った方がいいのではないかしら?」

 城と言うのが嘘だと言うのか?
 だがしかし、実際にその目で見た者の報告だとミラダの族長チェストミールは言っていたではないか。

 オフェリアの言葉に訝しげな目を向ける。
 するとそんな私の様子を見て彼女は、自分の言葉が足らなかったわとクスクスと笑いながら話の続きをしてくれた。

 「先程は小屋程度と言いましたけど、実際は人族が作る屋敷程度の物ならば隠蔽は私でもできます。だから報告の方を疑っているのですよ。私たちは雨露を凌げる程度の小屋があれば生活には困らないし、実際大きな館を作る事は無いでしょ。そんな物を基準に考えれば人族の屋敷を城と考えたとしてもおかしくは無いと思いません? それに館の周りに柵でも作ってあれば人族の館の大きさを知らない者なら勘違いしても仕方がないのではないかしら」

 「確かにそう言われてみれば」

 建物は大きな屋敷程度であったとしても、部落の小屋や近くに住む人族の村の建物を基準に考えれば信じられないほどの建築物と考えるかもしれない。
 人族との遭遇を恐れてかの地に近づかない者ならば、その人族の建物が異様に大きく見えたとしても、また、それを話に聞いた城と言うものと勘違いしたとしてもおかしくは無いか。

 「館程度のものなら、今度はなぜ隠蔽の魔法を使ってまで秘密にしなければいけなかったのかと言う疑問は残るけど、それなら人族の魔法使いの中にも隠蔽できる力を持った者が居たとしてもおかしくないもの。私はそのあたりが真相だと考えているわ」

 「そうだな。そなたの言葉を聞いて、私もそのように思えてきた」

 「そうでしょ。人族の城なんて私でも話に聞いたことしか無いけど、それはかなり大きく堅牢なものだと言う話だし、隠蔽の魔法以前にそう簡単に建てられるものではないでしょうから館が建てられただけなんだと思うわ」

 そんな彼女の言葉が私の中で真実になりつつある頃、ミラダ族の若者が城を見たという場所が近づいてきた。
 確かあの丘を登れば見えてくるはずだ。

 前方の丘を見ながら私はオフェリアに声をかける。

 「オフェリア、あの丘に登ればその館が見えるはずだ。と同時に、相手からもこちらを見ることが出来るという事でもある。我らと違い、遠くを見る力のない人族ではあるが魔法で物見をする者がいないとは限らない。さすがに常にこちらを窺っている者などいないとは思うが、万が一と言う事もあるからな。登りきる前に走るのをやめ、ゆっくりと登るぞ」

 「そうね。館だとしても、どんな目的で作られたのか解らないもの。監視をしている者に見つかって、いきなり魔法が飛んできたりしたら困るわ。まあ、怖い。フェルディナント、私を守ってくださいね」

 そう言うと彼女は微笑んだ後、一瞬で私との距離を縮め、

 ギュッ。(むにゅっ)

 私の腕にしがみついた。

 「なっ!?」

 なんと彼女は村の時のように腕を組むのではなく、腕に体ごとしがみついてきた。
 そのまま頭を私の肩に預けてくるオフェリアを私は力ずくで振りほどくわけにも行かず、かと言ってこの恥ずかしすぎる状況に頭が真っ白になって思わず立ち止まってしまった。

 「あら、どうしたの? いきなり立ち止まって。ここで休むのではなく、そのままゆっくり登るのでしょう?」

 「そっその前に、その、その手を放したまえ」

 上目遣いで小首をかしげながら微笑むオフェリアに、少々どもりながらも私は何とか腕を放すように言った。
 しかし、

 「えぇ〜、でも私は精霊系マジックキャスターだから弓や魔法で攻撃されたら一溜まりも無いのよぉ。こうやってぇ、フェルディナントにしがみついていないと怖くて丘の上までいけないわぁ」

 「それならば私の後ろに隠れながら登ればいいだろう」

 「あら、完全に隠れるなんてできないわ。だ・か・らぁ、私は守ってくれるフェルディナントにこうしてしがみついて登ることに決めました。ほら、あなたも族長になるほどのケンタウロスなんでしょ。ケンタウレ一人守れなくてどうするの? あきらめてエスコートしてね」

 そなたも族長だろうが。
 そんな事を考えるのだが、そもそもそう言えるのなら先程もどもったりはしない。

 結局あきらめて私はオフェリアをぶら下げたまま、丘を登ることにした。



 駆け上がれば数十秒、しかし歩いて登るとなるとそうは行かない。
 少々長い時間を掛けて丘を登っていくと、頂上が見えてきた。

 「いよいよね。人族の館ってどんなのだろう? 私、村の近くまでは行った事があるけど、この近くの人族の村は大きな家は無かったのよね。楽しみだわ」

 「もしかすると我々ケンタウロスの脅威になるかもしれないのに、なにを悠長な事を」

 そんな事を言いながらも、私も少々興味があった。
 獣人に比べてひ弱な人族は建物や鎧でその身を守っている。
 それだけに私たちが住んでいるような小屋とはかなり違った物を建てる力があるという事を知っているからだ。

 「さぁ、ここを登ればお目当て・・・のぉ!」

 「えっ!? なに? なによ、あれ・・・」

 まさか、そんなはずは。
 私は自分の目が信じられなかった。

 「なんて巨大な、それになんと美しい建物だ」

 「あれが人族の城。綺麗・・・」

 石造りで作られたその城は堅牢でありながら優雅、そしてその周りをよく手入れされた緑の庭園が囲んでいる。
 その美しさは人族の建築技術の高さを私に見せつけていた。

 「しかし、これを一日で建てたなどと。そんなはずが無い。絶対にありえない」

 「ええ、それに周りの庭園まで含めたこの広大な敷地にある全ての物を隠蔽できる魔法を使うなんて、神様でもなければ不可能よ」

 その通りだ。
 この城の建っている場所だけでも我々4部族の集落全てをあわせた物より広く、周りの庭園も含めればこの3分の1にも満たないだろう。
 これほど広大で巨大な物を魔法で隠すことなどできるわけが無いのはマジックキャスターではない私にだって解る事だ。

 「これ程の物を作るのには1年や2年では無理だろう。何てことだ。ミラダ族の奴ら、見回りをサボっていたな」

 「この辺りの見回りは彼らの役目ですもの。今までずっとやっていなかったのを誤魔化す為に突如現れたと言ったに違いないわ」

 ぎゅっ。

 しがみついていたオフェリアの腕に力が入る。
 あまりの衝撃の光景に彼女が自分にしがみついている事を忘れていた私は、腕に伝わる彼女のぬくもりを思い出し、少し赤面する。
 と、同時にその腕から彼女が少し怯えたように震えていることがわかった。

 のぼせかかる頭が一気にさめ、彼女に問い掛ける。
 その震えはどこから来たものなのかと。

 「どうしたんだ? オフェリア」
 
 「城よ、あんな大きな城なのよ。中にはきっと多くの人族の兵士がいるわ。もしかしたら私たちと戦うつもりなのかもしれない。ひ弱な人族が攻めてきたとしても、私たちが負けるとは思わないけど、きっと多くの同胞が死ぬことになる。特に弱い老人や子供たちは・・・」

 そう言うと、彼女は怯えたように顔を私の胸にうずめる。
 彼女自身は人族によってどうにかされるほど弱くは無い。
 精霊魔法と強靭なケンタウレの体と力を持つ彼女を傷つける事ができる者など、人族の中には殆どいないだろう。

 しかし、彼女の部族の中には当然老人や子供たちがいる。
 心優しい彼女は、その者たちが戦渦に巻き込まれて無残な姿を晒す光景を想像してしまったのだろう。

 自分ではない他の誰かであったとしても、そんな目にあう姿を想像してしまったのなら、怖くなったとしても仕方がない話だ。
 そしてケンタウレである彼女の心ではその恐怖に耐えられないというのも理解できる。
 しかし彼女はベルタの族長であり我々の中でも1・2を争うほどのマジックキャスターなのだ。

 か弱い女性だからと、ただ私たちが庇護すればいいと言う訳には行かない。
 私は心を鬼にして彼女に声をかける。

 「オフェリア、気持ちは解るがここは気を強く持ってくれ。そなたの精霊魔法ならあの城をここから詳しく調べる事ができるのだろう? 脅威になりえると解った以上、なるべく多くの情報が必要になるはずだ」

 「そう、そうよね。ベルタの族長である私がしっかりしなければ部族の者たちを守ることなんてできないわ」

 自分の立ち位置を再確認して気力を取り戻してくれたのだろう。
 私も見上げるその銀の瞳には力が戻っていた。

 「それでは頼むぞ。」

 「解ったわ。<サモン・エアエレメンタル>」

 オフェリアが魔法を唱えると一陣の風と共に、緑の光る小さな玉が現れた。

 「これが精霊、なのか?」

 「ええ、風の精霊よ。中位や上位になると人や動物をかたどったり人の言葉を話すモノも居るけど、下位精霊は皆この形ね、色は属性によって違うけど。あと、魔力系マジックキャスターの魔法やマジックアイテムによって根源の精霊力の源から力を与えられて中位精霊ほどの強さを持つ特殊な精霊もいるらしいわ。ただ、こちらは私たち精霊使いが使役する自然精霊とは別物と考えてもらってもいいわね。私たちには使役できないもの」

 自分の部族には神聖魔法を使う者は居るが精霊魔法を使うものはいないから初めて見た。
 精霊と言うものは、ほんのりと光を放っていて綺麗なものなのだな。

 「風の精霊よ、あの城へ飛び、その様子を私に知らせておくれ」

 オフェリアが自らが呼び出した風の精霊に命令を出した。
 しかし風の精霊はなぜかその場から動こうとはせず、その命令を一向に履行しようとはしなかった。

 「どうしたんだオフェリア?」

 「解らないわ。こんな事私も初めてだもの。風の精霊よ、なぜ私の言葉を聞いてくれないの?」

 そう言うと、オフェリアはそっと風の精霊に触れる。
 その瞬間、彼女は驚きの声を上げた。

 「えっ? 風の精霊が怯えている!?」

 「怯えているだって? 一体どういう事なんだ?」

 精霊って怯えるものなのか?
 それはともかく、これがどういう状況なのかまるで解らない私はオフェリアに聞くことしかできない。

 「いえ、これは怯えているわけではなさそうね。どちらかと言うと恐れ多いと言うか、自分はそのような事ができる立場に無いとでも言いたいような、そんな感じが伝わってくる」

 「どういう意味だ? 私には何を言っているのかまるで解らないのだが」

 精霊にとって恐れ多いと言うのはどういう状況なんだ? 精霊の王様でもあの城にはいるというのか?

 「私にも解らないわよ。精霊からこんな感情が伝わってきたのは初めてですもの」

 そう言って彼女は視線を精霊から城に向ける。

 「あの城には中位以上の精霊様がいるという事なの? でも、人族がそんな強力な精霊様を呼び出すことなどできるわけが無いし、何より一時的に呼び出された中位精霊様がいるだけならこの風の精霊の感情は少しおかしいわよね。どちらかと言うと、あそこに何か自分より巨大な力を持つものが住んでいるから自分は行けないとでも言っているようだもの」

 「中位以上の精霊が住む、か。ならばもしかするとあの城は人族のものではなく、精霊様の住まう場所なんじゃないか?」

 「それは無いわよ。だって精霊様はあのような建物を必要としないもの」

 「そうか」

 ならその線はないな。
 ではその他にどんな理由があるのだろうか?

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ。

 そんなことを考えていると、突如辺りにすさまじい轟音が響き渡った。

 その音に驚き、思わず何事かと音のする方、城に目を向ける。
 すると城の西側、こちらから見て反対側の地面がかなり広範囲に抉れていた。
 そう、まるで突如天変地異が起こって広範囲が陥没でもしたかのように。

 「なんだ? 一体何が起こった?」

 「解らないわ。解らないけど、何かとてつもない事が起こったことだけは私にも解る。だって、自然現象であんな事がおこるわけがないもの」

 そう言って城の向こう、陥没したあたりを注意深く見るように目を細めたオフェリアは、次の瞬間信じられないものを見たかのように銀の目を見開き、その白く整った顔を驚愕の色に染めた。
 なんだ?一体何が起こっている?

 疑問に思った私はオフェリアと同じ様に注意深く陥没したあたりを見渡す。
 すると先程は巨大な穴に意識がが集中して気が付かなかったが、その穴の向こうに広がる草原に巨大な四足の、見るからに硬そうな岩を思わせる体と立派な角を持ち、強大な魔力と存在をその姿から感じる黒い魔物が居るのが見えた。

 「あの魔物はなんだ? あの魔物があの巨大な穴を開けたのか?」

 「まっまさか、あれはダオ様? 土の上位精霊であるダオ様があの城にはお住みになられているというのですか?」

 上位精霊だって!?

 「ばかな、上位だと? そんな神にも等しい精霊がこの世に顕現していると言うのか?」

 「間違いありません。あれは土の上位精霊のダオ様です。えっ!? 信じられない! ああ、なんと言う事でしょう!」

 土の上位精霊だと説明された魔物? のほうを見つめていたオフェリアが、見開いていた銀の瞳を更なる驚きを受けて、より大きく見開いた。
 何事かと思い、私も慌てて魔物の方に目を向ける。

 「馬鹿な! あれがオフェリアの言う通り本当に大地の上位精霊であるダオだとしたら、あそこに居るあれは一体何者なんだ?」

 私の目はおかしくなってしまったのか?
 しかし、隣で驚愕に固まるオフェリアの姿を見る限り、彼女もきっと私と同じものが見えているはずだ。
 そう考え、私は今も目に映る光景を受け入れざるを得ない。
 だがそう頭で理解しても未だ自分の目が信じる事など出来なかった。

 そんな混乱をしている私の目に映っているのは、オレンジ色のドレスを身に纏った人族の子供が大地の上位精霊であるはずのダオの頭の上に乗って穴の方を指差し、その頭をぺちぺちと叩きながら何か指示を出していると言うとんでもない光景だった。


あとがきのような、言い訳のようなもの



 思ったより進みませんでしたね。
 キャラクターをしっかり書こうとした結果こんなことになってしまいました。
 もうちょっとしっかりと話を進めたかったのですが私の実力が足らず、このような結果になってしまいました。

 さて、前回の最後を読んでもらえているなら解っていると思いますが、オフェリアはフェルディナントを狙っています。
 特に今は他の目が無いのでかなり大胆に迫っていますが、当のフェルディナントがかなりの晩熟(ヘタレとも言う)なので思うようにいきません。
 この二人、ザリュースとクリュシュのような関係になるのだろうか?

 まぁ、なってもあのシーンは書かないですけどね。
 命の危険はナザリック相手と違って無いですからw

 因みにこの時も、その前のミラダ族の若者が城を見たときもイングウェンザーに把握されているのは62話で語られている通りです。


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